10月17日 厚生労働省が乗り出した扶養の壁対策

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

社会保険には、年収106万円以上で健康保険・厚生年金保険に加入することになることから、社会保険料の負担を避けて就業調整をするいわゆる「106万円の壁」と、年収130万円以上で国民年金・国民健康保険に加入することになることから、社会保険料の負担を避けて就業調整をするいわゆる「130万円の壁」があります。
9月下旬、厚生労働省からこれらの壁を意識せずに働くことのできる環境づくりを後押しするための施策「年収の壁・支援強化パッケージ」が公表されました。

[1]106万円の壁への対応

[キャリアアップ助成金の変更]
現在あるキャリアアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」が新設されることとなりました。このコースは、短時間労働者が社会保険の加入により手取り収入が減少することを意識せず働くことができるよう、従業員の収入を増加させる取組みを行った会社に対して、従業員1人当たり最大50万円の支援を行うものとなっています。なお、実施に当たっては、支給申請の事務が簡素化される予定です。
また、従業員の収入を増加させる取組みとしては、賃金の引上げや所定労働時間の延長が考えられますが、これらのほか、社会保険の適用に伴う社会保険料の負担を軽減するために「社会保険適用促進手当」を支給する場合も、助成金の支給対象にするとしています。

[社会保険適用促進手当]
この「社会保険適用促進手当」については、新たに発生した本人負担分の社会保険料相当額を上限として、従業員の標準報酬月額・標準賞与額の決定の際には考慮しない取扱いとなります。この取扱いの適用は最大2年間とされています。

[2]130万円の壁への対応
被扶養者の認定の基準の1つに「年収130万円未満であること」があります。この被扶養者の認定基準について、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入の変動によるときは、その旨を会社の証明を添付することにより迅速で円滑な判断ができるように変更されます。

このほか、特に中小企業において、配偶者手当の見直しを後押しするために、見直しの手順をフローチャートで示す等のわかりやすい資料を作成・公表するといった対応も図られることになっています。詳細は今後示されることになりますので、厚生労働省のホームページで確認するとよいでしょう。

■参考リンク
厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ

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10月10日 時間単位年休と子の看護休暇等の時間単位の取扱いの違い

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各種休暇の中で、従業員が時間単位で取得できるものとして年次有給休暇(以下、「年休」という)と子の看護休暇・介護休暇(以下、「子の看護休暇等」という)があります。それぞれの違いに着目し、内容を確認しましょう。

[1]労使協定の位置づけ

年休は原則、暦日単位での取得になっており、時間単位で取得するには労使協定を締結する必要があります。

一方、子の看護休暇等については、2021年1月1日より、労使協定を締結することなく、時間単位でも取得できるようにすることが義務となりました。なお、子の看護休暇等を時間単位で取得させることが困難と認められる業務に従事する従業員を、時間単位での取得から除外することが可能ですが、その際は労使協定を締結することが必要です。

[2]取得単位の考え方
時間単位年休は、1時間未満を取得単位とすることはできず、1時間以上の単位での取得となります。例えば2時間単位での取得とすることもできますが、この場合、労使協定にその単位となる時間数を定めることが求められます。
子の看護休暇等は、1時間単位での取得が原則であり、年休のように2時間単位での取得とすることはできません。一方で、15分などの分単位で取得できるようにすることは、法令を上回る取扱いとして認められます。

 

[3]1日の時間数の取扱い
1日分の年休を時間単位年休に換算するときで、1時間未満の端数があるときは、時間単位に切り上げることとされています。例えば所定労働時間が7時間30分の場合、1日8時間に換算した上で、時間単位の取得をさせることになります。
一方、子の看護休暇等も同様に考えることが原則ですが、分単位で取得できるようにした場合については、1日の所定労働時間数に1時間に満たない端数があったとしても、従業員にとって不利益にならなければ、端数を時間単位に切り上げなくても差し支えないとされています。

 

[4]中抜けの取扱い
時間単位年休については、取得する時間帯を制限することはできません。そのため、所定労働時間の途中に時間単位年休を取得するいわゆる「中抜け」としての取得もできます。
子の看護休暇等については、始業時刻から連続、または終業時刻まで連続して取得することになっており、法令上は中抜けでの取得を認めていません。なお、会社が任意で、子の看護休暇等に対し、中抜けの取得を認めることは問題ありません。

時間単位年休と子の看護休暇等の時間単位での取得について、取扱いを整理すると、上記のようなさまざまな違いがあります。細かな点について、知識があいまいになっているケースもあるため、この機会に再確認しましょう。

 

■参考リンク
厚生労働省 働き方・休み方改善ポータルサイト「時間単位の年次有給休暇制度とは
厚生労働省「子の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得できるようになります!

 

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10月3日 過去最大の引上げ幅となった2023年度の最低賃金

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最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。

仮に最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。

したがって、最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。また、地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められ、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められています。

[1]最低賃金の種類と改定タイミング
賃金については、都道府県ごとにその最低額(最低賃金)が定められており、企業はその額以上の賃金を労働者に支払うことが義務付けられています。
この最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類がありますが、このうち「地域別最低賃金」は、毎年10月に改定されることになっています。2023年度について全都道府県の「地域別最低賃金」が決定しました。

[2]2023年度の地域別最低賃金と発効日
2023年度の地域別最低賃金と発効日は、下表のとおりとなっています。改定額の全国加重平均額は1,004円(昨年度961円)となり、43円の引上げです。これは1978年度に現在の目安制度が始まって以降で最高額となります。
なお、最低賃金の地域間格差も課題とされていましたが、最高額(1,113円)に対する最低額(893円)の比率は、80.2%(昨年度79.6%)となり、9年連続の改善となっています。※図はクリックで拡大されます。

 

パートタイマー・アルバイト等の時給者の賃金が最低賃金を下回っていないかを確認するとともに、月給者についても1時間あたりの賃金額を算出し、確認するようにしましょう。

 

■参考リンク
厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧

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9月26日 有期契約労働者を雇用する際の注意点

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期間の定めのある労働契約(有期労働契約)については、契約更新を繰り返し、一定期間雇用をしていたにも関わらず、突然、契約更新をせずに期間満了をもって退職させるなどして、トラブルになることが少なくありません。以下では、有期契約労働者を雇用する際の注意点をとり上げます。

【1】契約締結時の労働条件の明示

有期契約労働者と労働契約を締結する際には、労働契約期間とあわせて、契約更新の有無と更新する際の判断基準を明示する必要があります。更新の判断基準については、例えば以下のようなものが挙げられます。

  • 契約期間満了時の業務量により判断する
  • 労働者の勤務成績、態度により判断する
  • 労働者の能力により判断する
  • 会社の経営状況により判断する
  • 従事している業務の進捗状況により判断する

労働条件通知書が実態とあった内容となっているかを確認し、必要に応じ見直しをしましょう。

【2】雇止めにおける手続き

労働契約を更新してきた有期契約労働者を、現在の労働契約をもって更新せずに終了する。「雇止め」を行う場合には、契約期間が満了する。少なくとも30日前までに伝える必要があります(雇止めの予告)。この雇止め予告の対象は、以下のいずれかに該当する人です。

① 有期労働契約を3 回以上更新している人

② 1 年以下の契約期間の労働契約を更新し、1年を超えて雇用している人

③最初から1年を超える契約期間の労働契約を締結している人

 なお、現在の労働契約をもって契約更新をしない旨が明示されている場合は、この雇止め予告を行う必要はありません。

 

【3】雇止めに係る証明

雇止めの予告をした後に、有期契約労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合、会社は遅滞なくこの証明書を交付する必要があります(雇止めの理由の明示)。

また、雇止めの後についても、有期契約労働者から請求があれば証明書の交付が必要です。  

明示する雇止めの理由は、契約期間の満了とは別の具体的な理由とすることが必要です。例えば以下のようなものが挙げられます。

  • 前回の契約更新時に、 本契約を更新しないことが合意されていたため
  • 契約締結当初から、 更新回数の上限を設けており、 本契約はその上限に係るものであるため
  • 担当していた業務が終了・中止したため
  • 事業縮小のため
  • 業務を遂行する能力が十分ではないと認められるため
  • 職務命令に対する違反行為を行ったため

雇止めに関するトラブルを防ぐために、労働条件通知書に契約更新の判断基準を明示することと併せて、雇入れ時や契約更新時に、会社から有期契約労働者に対して、どのような契約内容かを分かりやすく説明しておくことが望まれます。

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9月19日 2022年度の労基署による賃金不払事案の指導金額は121億円

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先月、厚生労働省は「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)」を公表しました。これは2022年1月から2022年12月までに、全国の労働基準監督署が、賃金不払が疑われる事業場に対して実施した監督指導の結果を取りまとめたものです。この取りまとめは、これまで支払額が1企業で合計100万円以上の割増賃金不払事案のみが対象とされていましたが、今回から、それ以外の事案を含めた賃金不払事案全体が集計されています。以下ではその結果と実際の監督指導の事例をとり上げます。

 

[1]監督指導状況

 2022年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数、対象労働者数及び金額は以下のとおりです。

  • 件数 20,531件
  • 対象労働者数 179,643人
  • 金額 121億2,316万円

 このうち、2022年中に労働基準監督署の指導により企業が賃金を支払い、解決されたものの状況は以下のとおりです。

  • 件数 19,708件(96.0%)
  • 対象労働者数 175,893人(98.0%)
  • 金額 79億4,597万円(65.5%)

 この支払われた金額の中で、1事案における最大支払金額は2.7億円でした。

[2]監督指導の対象となった事案
 本結果の中では「監督指導による是正事例」が紹介されていますが、自社の労働時間管理の在り方を見直す際の参考となりますので、ここでは労働時間の記録と労働実態の乖離の事例をとり上げます。

[概要]

  • 過重労働による労災請求を基に、労働基準監督署が監督指導を実施。
  • 労働時間はタイムカードにより出退勤時刻を把握し、残業時間は残業申請により把握。
  • 聴取調査において、管理者が出退勤時刻と残業申請の時刻に乖離があっても労働者への確認が不十分なまま黙認していたとのことであったため、出退勤記録と残業申請との間の乖離の原因究明や不払となっている割増賃金を支払うよう指導。

[企業が実施した解消策]

  • タイムカードによる出退勤記録と労働者からのヒアリングなどを基に乖離の原因や割増賃金の不払の有無について調査を行い、不払となっていた割増賃金を支払った。
  • 賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。
    1. 日々、出退勤時刻と残業申請の時刻に乖離があった場合には、管理者及び労働者に対し通知を行い、注意喚起を行うこととした。
    2. 毎月、人事担当部署において、出退勤時刻と残業申請の確認を行い、2つの記録に乖離がある場合については、労働者に乖離の理由を確認することとした。
    3. 管理者を集めた会議を開催し、部下とのコミュニケーションを促進することにより、適切な労働時間申請が行われる環境を整える必要性についての意識向上を図った。
    4. 全社員を集めた会議を開催し、労働時間管理の重要性を周知し、会社としてもワーク・ライフ・バランスを重視していることを説明し、労使一体となって適正な労働時間管理の重要性についての認識の共有を図った。

 労働時間の記録と労働実態の乖離がある場合は、上記の取組のように労働者に確認し、乖離を防止するため、労働者本人と管理者に対して注意喚起するなどの取組みが求められます。自社においても、労働時間記録と労働実態の乖離が生じていないか確認し、問題があれば早めに対応しましょう。

 

■参考リンク
厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)を公表します

 

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9月12日 改めて見直したい永年勤続表彰金の社会保険の取扱い

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長期勤続をした従業員に対し、褒賞金(永年勤続表彰金)を支給したり、特別休暇を付与したりすることがあります。
福利厚生の一環として行われることが多いこれらの制度ですが、制度を運用する上で、社会保険・労働保険の取扱いに注意すべき点があります。以下では所得税のことにも触れつつ、この内容をとり上げます。

[1]社会保険の取扱い

社会保険(健康保険・厚生年金保険)では、労働の対償として経常的かつ実質的に受けるもので、被保険者の通常の生計に充てられるすべてのものを「報酬等」として扱います。
2023年6月27日に日本年金機構が公表している「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」が改正され、永年勤続表彰金について、以下の要件をすべて満たすような支給形態であれば、恩恵的に支給されるものとして、原則として報酬等に該当しないことが示されました。

  1. 表彰の目的
    企業の福利厚生施策又は長期勤続の奨励策として実施するもの。なお、支給に併せてリフレッシュ休暇が付与されるような場合は、より福利厚生としての側面が強いと判断される。
  2. 表彰の基準
    勤続年数のみを要件として一律に支給されるもの。
  3. 支給の形態
    社会通念上いわゆるお祝い金の範囲を超えていないものであって、表彰の間隔が概ね5年以上のもの。

なお、これらの要件を一つでも満たさないことをもって、直ちに報酬等と判断するのではなく、その性質について十分確認した上で、総合的に判断するとされています。

 

[2]労働保険の取扱い

労働保険では、賃金、手当、賞与、その他名称を問わず、労働の対償として会社が従業員に支払うすべてのものを賃金として扱います。
賃金とするもの、賃金としないものは具体的に列挙されており、「勤続褒賞金」は、労働協約・就業規則等の定めがあるか否かを問わず、賃金としないとされています。永年勤続表彰金とは名称が異なりますが、勤続褒賞金と同義と考えられますので、賃金として扱わなくてもよいでしょう。

 

[3]所得税の取扱い
所得税については、国税庁のホームページで、以下のように示されています。

創業記念で支給する記念品や永年にわたって勤務している人の表彰に当たって支給する記念品などは、次に掲げる要件(※)をすべて満たしていれば、給与として課税しなくてもよいことになっています。
なお、記念品の支給や旅行や観劇への招待費用の負担に代えて現金、商品券などを支給する場合には、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されます。
※要件は「参考リンク」からご確認ください。

支給目的は同じであっても、それぞれの法令で取扱いが異なります。適切な運用がされているか、この機会に確認しておきましょう。

 

■参考リンク
日本年金機構「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集
厚生労働省「令和5年度事業主の皆様へ(継続事業用)労働保険年度更新申告書の書き方
国税庁「No.2591 創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき

 

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9月5日 マイナンバーカードでの被保険者確認と窓口における対応

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健康保険証とマイナンバーカードの一体化が始まり、医療機関や薬局(以下、「医療機関等」という)の窓口で、マイナンバーカードによる健康保険の被保険者や被扶養者資格の確認が始まっています(オンライン資格確認)。
そこで、現段階でオンライン資格確認を行った際に発生することがある課題とその対応について確認します。

1]資格確認端末における表示
医療機関等の窓口では、資格確認端末にマイナンバーカードを置いたり、かざしたりすることでオンライン資格確認を行いますが、被保険者や被扶養者資格があるにも関わらず「資格(無効)」、「資格情報なし」と表示されることがあります。
表示される理由は複数ありますが、例えば、転職により転職先での資格取得手続きを行っているものの、オンライン資格確認の時点では、資格情報が登録されていないようなケースがあります。

 

2]資格確認ができないときの対応
資格確認ができないときは医療機関等の窓口において、本来、医療費の全額(10割)を支払い、後日、協会けんぽ等の保険者に一部負担金を除いた額を請求する必要がありますが、従業員や家族が一時的に医療費を立て替える負担は小さくありません。そこで、オンライン資格確認ができない場合の対応として、統一した取扱いが示されています。
具体的には、医療機関等にある機器が不良でオンライン資格の確認ができない場合、従業員や家族が持っているスマートフォン等からマイナポータルにアクセスして資格情報の画面を提示したり、健康保険証を持参しているときにはそれを提示したりすること等により資格確認を行うことができます。
このような確認ができないときには、マイナンバーカードにある氏名や生年月日等の情報、連絡先、加入している保険者等に関する事項等を「被保険者資格申立書」に記入することで、一部負担金の支払いとすることができます。なお、被保険者資格申立書は医療機関等の窓口に用意されており、場合によっては口頭確認のみで済むこともあるかもしれません。

 

3]会社に求められる対応
本来は資格取得手続きをすることで、被保険者等の情報が速やかに登録されるのであれば、このような課題は解消されますが、それまでの期間についてはあらかじめ従業員に以下のようなアナウンスをしておくとよいでしょう。

  • オンライン資格確認をする際にはデータ登録の関係上、医療機関等で「資格(無効)」や「資格情報なし」と表示される場合がある
  • 医療機関等の機器不良等によりオンライン資格確認ができないことがある
  • オンライン資格確認ができないときには、「被保険者資格申立書」の提出等により一部負担金の支払いで済むことがある
  • データ登録の状況をお知らせする仕組みが整備されるまでの間、初めてマイナンバーカードで医療機関を受診する場合や、転職等により新しい健康保険証が交付された場合などは、マイナポータルで資格情報を確認するか、念のためマイナンバーカードとあわせて健康保険証を持参してほしい

今後もマイナンバーカードの活用においては、様々な課題が発生するかもしれません。情報収集をして、必要な情報を従業員に提供できるようにしておきましょう。

 

■参考リンク
厚生労働省「オンライン資格確認の導入について(医療機関・薬局、システムベンダ向け)

 

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8月29日 厳格な運用が求められる 変形労働時間制

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変形労働時間制を適用し、複数のシフトパターンにより労働させているケースがありますが、就業規則にすべてのシフトパターンが記載されていなかったとして変形労働時間制が無効とされた裁判例が出ています。以下では、変形労働時間制を運用する際の注意点をとり上げます。

 

【1】定めが必要な事項

例えば1ヶ月単位の変形労働時間制を導入し、就業規則に定める場合、以下の事項をすべて定める必要があります。

① 対象労働者の範囲
② 対象期間・起算日
③ 労働日・労働日ごとの労働時間

①の「対象労働者の範囲」は、変形労働時間制の対象となる労働者の範囲を明確に定める必要があります。
②の「対象期間・起算日」は、例えば「毎月1日を起算日とし、1ヶ月を平均して1 週間当たり40 時間以内とする」のように、具体的に対象期間と起算日を定める必要があります。なお、対象期間は1ヶ月以内の期間であれば、2 週間や4 週間とすることも可能です。
③の「労働日・労働日ごとの労働時間」は、シフト表や会社カレンダーなどで、②の対象期間すべての労働日ごとの労働時間をあらかじめ具体的に定める必要があります。
 シフト制労働者で月ごとにシフトを作成する場合は、全ての始業・終業時刻のパターンとその組み合わせの考え方、シフト表の作成手続・その周知方法等を定めておく必要があります。

【2】運用する際の注意点

 複数のシフトパターンがある場合、就業規則には、代表的なものだけを記載しているようなケースや、様々なパターンに関する記載があるものの実態とずれていたり、実態はさらに細かいシフトパターンがあったりするようなケースがあるでしょう。

 変形労働時間制が無効になった裁判例では、「原則として」と記載し、4 つのシフトパターンを定めたのみで、すべてのシフトパターンを記載していなかったとして、労働基準法第32 条2の「特定された週」または「特定された日」の要件を充足するものではないことから、変形労働時間制は無効であると裁判所が判断しました。
 ひとつの裁判例であるものの、会社は、就業規則にすべてのシフトパターンの記載があるかを確認し、記載がなければ追加し、また、今後において、記載されたシフトパターン以外の時間で勤務しないように管理していくことが求められます。

変形労働時間制は、特定した労働日、労働日ごとの労働時間を会社の都合で変更することはできないとされています。会社の都合で変更するような誤った運用もみられることから、適正に運用できているのかについても確認し、問題があれば改善しましょう。

■参考リンク週40時間労働制の実現 1ヵ月又は1年単位の変形労働時間制 (mhlw.go.jp)

 

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8月22日 こども未来戦略方針から見る今後の社会保険制度の変更

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2023年6月13日、大きな話題となっていた「こども未来戦略方針」(以下、「方針」という)が閣議決定され、正式な内容が公表されました。今後、この方針に沿った法改正等が進められることから、方針の中で触れられている社会保険に関連した内容をとり上げます。

 

[1]社会保険の2つの壁

従業員が加入する社会保険(健康保険・厚生年金保険)には、それぞれ加入基準が定められており、その基準を満たすことで、従業員自身が被保険者となり、会社とともに保険料を負担します。この保険料負担に関しては以下の2つの壁が存在しています。

  1. 106万円の壁
     厚生年金保険の被保険者数101人以上の企業(特定適用事業所)では、以下の3つの基準をすべて満たすことで、社会保険に加入し、保険料を負担することになっています。
    • 週の所定労働時間が20時間以上
    • 所定内賃金が月額8.8万円以上
    • 学生でない

     106万円とは、月額8.8万円を年間に換算した額であり、この壁を超える(年収が106万円以上となる)ことで、保険料の負担が発生することを示しています。

  2. 130万円の壁
     健康保険の被扶養者および国民年金の第3号被保険者として認定される要件の1つに、「年収が130万円未満であること」があります。被扶養者(第3号被保険者)は、健康保険料や国民年金保険料を直接負担する必要がありません。
     この壁を超える(年収が130万円以上となる)ことで、国民健康保険の被保険者や、国民年金の第1号被保険者となり、保険料の負担が生じることを示しています。

 

[2]社会保険の適用拡大
 106万円・130万円の壁があることで、これらの年収以上とならないように労働時間や賃金額を抑制する従業員が一定数存在しています。方針では、「いわゆる106万円・130万円の壁を意識せずに働くことが可能となるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大や最低賃金の引上げに取り組む」としています。そして、それにより男女ともにキャリアを築き、男女ともに育児を行うこと等を促進しようとしています。

 

[3]雇用保険の適用拡大
雇用保険は、週の所定労働時間が20時間以上であることが加入基準の一つとされており、加入し、支給要件を満たすことで失業等給付や育児休業給付等を受給することができます。
方針では、雇用保険の加入基準を拡大し、週の所定労働時間が20時間未満の従業員にも失業等給付や育児休業給付等を受給できるようにするとしています。
なお、拡大する範囲は「制度に関わる者の手続や保険料負担も踏まえて設定する」としており、施行時期は適用対象者数や事業主の準備期間等を勘案して2028年度までを目途としています。

上記[2]に関しては、被用者が新たに106万円の壁を超えても手取りの逆転を生じさせないための当面の対応が検討されており、今年中に実行するとしています。今後の動きにも注目しましょう。

■参考リンク
内閣官房「こども未来戦略方針

 

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8月15日 労働基準監督署の「定期監督等」における違反件数が多い項目

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

厚生労働省では、毎年、労働基準監督年報を発行しており、そこでは労働基準監督署等による様々な活動実績を見ることができます。今回は、令和3年版の労働基準監督年報の中から関心が高いであろう「定期監督等」の違反状況とその注意点をとり上げます。

[1]定期監督等の違反 上位10項目
 労働基準監督官が企業に訪問するような調査(監督)は、年間149,379件行われており、そのうち、毎月一定の計画に基づいて実施される「定期監督等」が122,054件(全体の81.7%)、労働者からの申告に基づいて実施される「申告監督」が16,101件、(全体の10.8%)、再監督が11,224件(全体の7.5%)となっています。このように見ると大半が「定期監督等」であることが分かります。
 そして、この「定期監督等」における違反状況について、件数の多いものからみてみると、以下のようになっています。

 項目  令和3年  令和2年
 1  労働安全衛生法20~25条(安全基準)  23,823件  22,432件
 2  労働安全衛生法66条~66条の6(健康診断)  22,139件  20,153件
 3  労働基準法32条(労働時間)  18,007件  19,493件
 4  労働基準法37条(割増賃金)  16,521件  16,701件
 5  労働基準法108条(賃金台帳)  10,030件  9,893件
 6  労働基準法15条(労働条件の明示)  10,025件  10,817件
 7  労働基準法39条(年次有給休暇)  9,783件  3,486件
 8  労働基準法89条(就業規則)  9,148件  9,088件
 9  労働基準法施行規則24条の7条(年次有給休暇管理簿)  7,370件  5,443件
 10  労働安全衛生66条の8の3(時間把握)  6,414件  5,607件

[2]特に注意したい「年次有給休暇」に関する違反
 上記10項目の中で、7位の労働基準法39条(年次有給休暇)は、前年に比べて2.8倍の大幅増となっています。また、9位の労働基準法施行規則24条の7条(年次有給休暇管理簿)も前年に比べると1.4倍と急増しています。
 働き方改革関連法の中で改正が行われた年次有給休暇に関する指摘が増えていることから、年10日以上の年次有給休暇が付与されたすべての従業員について、付与した日から1年以内に5日の取得ができているのか、従業員ごとに年次有給休暇を取得した日付、取得日数、基準日が記載された年次有給休暇管理簿が作成されているのかなどについて確認しておきましょう。

 年次有給休暇以外の項目についても、法令の条文に立ち返って問題がないか確認し、労働基準監督署から指摘を受けないようにすることが求められます。

■参考リンク
厚生労働省「労働基準監督年報

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