6月27日 治療と仕事の両立支援を検討する際のポイント

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

労働者の約3人に1人が何らかの疾病を抱えながら働いているとされます。また職場において労働力の高齢化が進むことに伴い、今後、労働者が治療と仕事を両立していくことのできる環境の整備がより一層求められることになります。
そこで、今回は治療と仕事の両立支援を検討する際のポイントをとり上げます。

 

 1]両立支援の現状
厚生労働省が公表している「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」によると、傷病(がん、糖尿病等の私傷病)を抱えた何らかの配慮を必要とする労働者に対して、治療と仕事を両立できるような取組みが行われている事業所の割合は41.1%となっています。
その取組内容(複数回答)をみると、「通院や体調等の状況に合わせた配慮、措置の検討(柔軟な労働時間の設定、仕事内容の調整等)」が91.1%、「両立支援に関する制度の整備(年次有給休暇以外の休暇制度、勤務制度等)」が36.0%、「相談窓口等の明確化」が32.1%と続いています。

 

2]勤務制度・休暇制度を検討する際の選択肢
このように両立支援の取組としては、柔軟な勤務制度や特別休暇などの制度の導入が多く行われています。以下では、これらの具体的な選択肢について見ていきましょう。

  1. 勤務制度
    • 時差出勤制度
      通院のためや通勤による身体の負担を軽減するために始業・終業時刻を変更することです。時差出勤の場合、1日の所定労働時間に変更がないため、短時間勤務制度と異なり、給与が減額とならないというメリットがあります。
    • 短時間勤務制度
      フルタイム勤務が難しい場合、所定労働時間を短くして引き続き働くことができるようにするものです。
    • テレワーク
      通勤による身体の負担を軽減し、在宅勤務などリモートで働いてもらうというものです。

  1. 休暇制度
    • 時間単位の年次有給休暇
      年次有給休暇は1日単位で取得することを原則としていますが、労使協定を締結することで、年5日を上限として、1時間単位で取得することができるようになります。これにより、通院等で必要な時間を年次有給休暇で活用することができます。
    • 積立年次有給休暇
      年次有給休暇は付与日から2年が経過すると請求権がなくなりますが、この請求権がなくなった年次有給休暇を積み立てておき、病気治療による通院などの場合に利用できる制度を会社独自に設けておくものです。
    • 病気休暇
      会社独自の制度として、入院治療や通院のために利用できる休暇制度を設けておくものです。

こうした勤務制度や休暇制度については、運用方法と併せて管理職が制度を理解するための研修も必要になります。実際に運用していくまでには時間がかかることから、早めに検討を始めるとよいでしょう。

■参考リンク
厚生労働省「治療と仕事の両立について
厚生労働省「調査の概要

 

福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)では、就業規則の制定及び変更、制度設計、労務相談、各種助成金に関するご相談、申請代行等も承っております。
小さなご相談もぜひ一度お問い合わせください。(お問い合わせはこちらから)

6月20日 今後の最低賃金引き上げの方向性

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

近年、最低賃金は大幅な引上げが行われており、企業経営に大きな影響を与えています。
今年10月の最低賃金引き上げはどうなるのか、更にはその後も現在のような高水準での引上げが継続されるのかについて強い関心をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、2023年4月12日に、内閣官房新しい資本主義実現本部事務局が公表した「三位一体労働市場改革の論点案」の中から最低賃金に関する今後の論点について見ていきましょう。

[1]「三位一体労働市場改革の論点案」
最低賃金に関して「三位一体労働市場改革の論点案」の中に記載されている内容をまとめると、以下のとおりとなります。

  1. 今年は、全国加重平均1,000円を達成することを含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会で、しっかりと議論してもらう。
  2. 地域間格差の是正を図るため、地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げることも必要。
  3. 今夏以降は、1,000円達成後の最低賃金引上げの方針についても(新しい資本主義実現会議で)議論を行う。

これはあくまでも今後の議論の方向性ということで、実際には今後の議論が待たれるところではありますが、今年も例年相当、もしくはそれ以上の最低賃金引上げの可能性が出てきています。

 

[2]最低賃金の地域間格差縮小への動き
[1]の2.でも最低賃金の地域間格差是正が論点となっていますが、この点については既に具体的な動きが見られます。最低賃金は、中央最低賃金審議会から示される引上げ額の目安を参考にしながら、各都道府県の地方最低賃金審議会で地域の実情を踏まえた審議・答申を得た後、異議申出に関する手続きを経て、都道府県労働局長により決定される仕組みとなっています。

この目安については、従来A~Dの4区分が設けられており、東京・大阪などの都市部と地方では目安額に差が設けられることが通例となっていました。今回、この区分がA~Cの3区分へ再編されることとなり、最低賃金の地域間格差の縮小が図られることとなっています。

諸外国との賃金格差の縮小が大きな課題となる中、最低賃金に関しても、今後、大きな動きが予想されます。人手不足による採用難もあり、賃金は上昇傾向にありますので、今後の賃上げに備えた生産性の向上がまずは求められます。

 

■参考リンク
内閣官房新しい資本主義実現本部事務局
三位一体労働市場改革の論点案」 
厚生労働省
第65回中央最低賃金審議会 資料

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)では、就業規則の制定及び変更、制度設計、労務相談、各種助成金に関するご相談、申請代行等も承っております。
小さなご相談もぜひ一度お問い合わせください。(お問い合わせはこちらから)

6月13日 高年齢者・障害者雇用状況報告を行う際の確認事項

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

一定数以上の従業員を雇用している企業は、毎年6月1日現在の高年齢者の雇用状況と障害者の雇用状況を報告する義務があり、2023年7月18日までにそれぞれの雇用状況報告書を提出する必要があります。

以下では、今年より変更となる高年齢者雇用状況等報告書の様式の内容と、障害者雇用状況報告の際に求められる注意点についてとり上げます。

[1]様式が変更となった高年齢者雇用状況等報告書
高年齢者雇用状況等報告書の様式は昨年から変更が行われており、例えば、もともと「過去1年間の定年到達者等の状況(65歳未満)」と表現されていた欄が、「65歳まで働ける制度の過去1年間の適用状況」に変更されています。高年齢者雇用状況等報告書および障害者雇用状況報告書の記入要領には、今回変更となった欄に関して、記入にあたっての考え方が記載されていますので、記入する際に目を通すことをお勧めします。
また、高年齢者雇用状況等報告の記入方法については、現在、厚生労働省のYouTubeで解説動画が公開されています。このような解説動画も活用しながら、準備を進めましょう。

[2]障害者雇用状況報告の際に求められる注意点
障害者雇用状況の報告にあたり、障害者の把握を行うことがありますが、プライバシーに配慮した障害者の把握・確認が求められます。そのため、原則として、すべての従業員に対して画一的な手段で申告を呼びかける必要があります。その呼びかけを行う方法としては、以下のようなものがあります。

  • 従業員全員が社内 LAN を使用できる環境を整備し、社内 LAN の掲示板に掲載する。
  • 従業員者全員に対して一斉にメールを配信する。
  • 従業員全員に対して、チラシ、社内報等を配布する。
  • 従業員全員に対する回覧板に記載する。
  • 従業員全員が定期的に見ると想定される事業所内の掲示板に掲示する。

呼びかけの際に利用目的として、障害者雇用状況の報告のために用いる旨を明示することが必要です。併せて、この呼びかけに対して回答することが業務命令ではないことを明らかにすることが望まれます。

この高年齢者雇用状況等報告と障害者雇用状況報告は、e-Govを使用する電子申請による方法のほか、郵送またはハローワークに出向くことにより提出ができます。電子申請にも対応していますが、今年から電子証明またはGビズIDが必要になりました。これからGビズIDの発行を検討される場合、発行に時間を要することから早めにデジタル庁のホームページを確認しましょう。

 

■参考リンク
厚生労働省「令和5年高年齢者・障害者雇用状況報告の提出について
厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告書及び記入要領等
厚生労働省「障害者雇用状況報告書及び記入要領等
デジタル庁

福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)では、就業規則の制定及び変更、制度設計、労務相談、各種助成金に関するご相談、申請代行等も承っております。
小さなご相談もぜひ一度お問い合わせください。(お問い合わせはこちらから)

6月6日 常時雇用労働者の定義・カウント方法

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

就業規則の届出については常時使用する労働者の数が10人以上の事業場、衛生委員会の開催は常時使用する労働者の数が50人以上の事業場といったように、労働者の人数を基準に法令上の義務が定められているものがあります。そこで今回は、常時雇用する労働者の定義・カウント方法を確認します。

[1]労働基準法
 まず「労働者」の定義を確認すると、労働基準法では第9条で、職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者をいう、としています。ここには日雇労働者やパートタイマー等も含まれます。
 これを踏まえ「常時使用する」については、企業の通常の状況により判断するとされており、臨時的に雇い入れた場合や臨時的に欠員を生じた場合は労働者の数に変動が生じたものとして取り扱う必要はないものの、パートタイマー・アルバイトであっても臨時的な雇入れでなければ、常時使用する労働者数に含める必要があるとされています。

[2]労働安全衛生法
 労働安全衛生法の対象となる労働者は、原則、労働基準法と同じですが、労働安全衛生法が、職場で働くすべての労働者の安全を守る法律であることから、派遣労働者を受け入れている事業場は、派遣労働者も含めて常時雇用する労働者数を算出します。例えば事業場の労働者の数が45人で、派遣労働者が5人いる場合、合計50人となり、衛生管理者の選任等が必要になります。

[3]障害者雇用
 現在、常時雇用する労働者が43.5人以上の事業主(企業)は、障害者を1人以上雇用することが義務付けられています。この常時雇用する労働者は、1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者であって、1年を超えて雇用される人(見込みを含む)が対象となります。
 計算方法は、週所定労働時間が30時間以上の労働者については1人としてカウントし、20時間以上30時間未満の労働者については1人を0.5人としてカウントします。

[4]次世代育成支援対策推進法等
 次世代育成支援対策推進法や女性活躍推進法では、常時雇用する労働者が101人以上の事業主(企業)に対して、一般事業主行動計画の策定・届出を義務付けています。
 この常時雇用する労働者には、期間の定めなく雇用される人、過去1年間に引き続き雇用されている人または雇入れ時から1年以上雇用されると見込まれる人が含まれます。

それぞれの内容によって、常時雇用する労働者の定義が異なり、またカウントの範囲が事業場の場合と事業主(企業単位)の場合があります。それぞれ正しく労働者数が算出できているか、この機会に確認しましょう。

 

■参考リンク
厚生労働省「事業場の規模を判断するときの「常時使用する労働者の数」はどのように数えるのでしょうか。」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09985.html
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「令和4年度障害者雇用納付金制度「ご案内」」
https://www.jeed.go.jp/disability/q2k4vk000002t1yo-att/q2k4vk000003p1yn.pdf
厚生労働省「次世代育成支援対策推進法関係パンフレット」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/pamphlet/26.html

 

福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)では、就業規則の制定及び変更、制度設計、労務相談、各種助成金に関するご相談、申請代行等も承っております。
小さなご相談もぜひ一度お問い合わせください。(お問い合わせはこちらから)

5月30日 定期健康診断以外の健康診断が必要となる労働者

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

会社は、常時使用する労働者に対し、一般健康診断として雇入れ時および1年以内に1回の定期健康診断や特定業務従事者に対する健康診断を行う義務がありますが、その他にも、有害業務等に従事する労働者に対して実施する特殊健康診断や歯科医師による健康診断等があります。以下ではこれらの内容を確認しておきましょう。

【1】特定業務従事者の健康診断  
特定業務従事者の健康診断は、労働安全衛生規則に掲げる業務に常時従事する労働者に対して、実施することが義務付けられています。  


具体的な業務には、多量の高熱物体を取扱う業務や著しく暑熱な場所における業務、多量の低温物体を取扱う業務および著しく寒冷な場所における業務、ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務等があり、深夜業を含む業務等も含まれています。  これらに該当する業務へ労働者を配置替えする際、6ヶ月以内ごとに1回これらの業務に常時従事する労働者に対して実施が必要です。

【2】特殊健康診断  
特殊健康診断は、以下の有害な業務に常時従事する労働者等に対して、一般健康診断とは 異なる項目に係る健康診断の実施が義務付けられています。
① 有機溶剤業務 ② 鉛業務 ③ 四アルキル鉛業務 ④ 特定化学物質業務 ⑤ 高気圧業務 ⑥ 放射線業務 ⑦ 除染等業務 ⑧ 石綿業務  
原則として、雇入れ時、配置替えの際と6ヶ月以内ごとに1 回の実施が必要です。また、上記のうち、一定の特定化学物質業務や石綿業務などについては、それらの業務に従事しなくなった場合でも特殊健康診断の実施が必要です。

【3】歯科医師による健康診断
歯科医師による健康診断は、有害業務(塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、フッ化水素、黄りんその他歯またはその支持組織に有害な物のガス、蒸気または粉じんを発散する場所における業務)に常時従事する労働者に対して、雇入れ時、配置替えの際と6ヶ月以内ごとに1 回の実施が必要です。  

この健康診断を実施した場合、常時使用する労働者の数が50人以上の事業場に実施結果を報告することが義務付けられていましたが、2022 年10 月より、事業場規模にかかわらず、すべての事業場に報告が義務付けられました。  
歯科健康診断結果の報告書様式が新たに 定められているため、報告する際には新様式を使用しましょう。

派遣労働者は派遣元で雇用されていますが、実際に業務を行う場は派遣先となります。そのため、 派遣労働者の定期健康診断・特定業務従事者の健康診断は派遣元、特殊健康診断・歯科医師による健康診断は派遣先で実施することが義務付けられています。健康診断の実施がもれないようにしましょう。

 

福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)では、就業規則の制定及び変更、制度設計、労務相談、各種助成金に関するご相談、申請代行等も承っております。
小さなご相談もぜひ一度お問い合わせください。(お問い合わせはこちらから)

5月23日 導入を検討したい 勤務間インターバル制度

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

勤務間インターバル制度の導入は企業の努力義務とされ、国は2025年までに導入している企業の割合を15%以上とするという数値目標を定めています。2022年10月に厚生労働省から公 表された「2022年の就労条件総合調査の結果」からその導入状況、そして制度の導入を検討する際のポイントをとり上げます。

【1】勤務間インターバル制度の  導入状況

 勤務間インターバル制度を導入している企業の割合をみると、「導入している」が5.8% (2021年調査 4.6%)、「導入を予定又は検討し ている」が12.7%(同 13.8%)「導入予定はなく、検討もしていない」が 80.4%(同 80.2%)となっています。企業規模別でみると、おおむね従業員数が多くなるにつれて導入済み、または導入に向けた動きをしている割合が高くなります。

【2】勤務間インターバル時間

 制度を導入する際には、終業時刻から始業時刻までの間に空ける時間、いわゆる「インターバル時間数」の設定をします。法令で時間数の定めは特段ありませんが、通勤時間や食事の時間等を勘案した上で、一定の睡眠時間の確保ができる時間設定が必要になります。

【3】制度導入を検討する際のポイント

制度を導入する際の主な検討項目は次のとおりです。

①制度の適用対象となる従業員の範囲

②インターバル時間数

③インターバルを確保することにより、翌日の始業時刻を超える場合の取扱い

④インターバル時間の確保に関する申請手続き  

この中で、③については、インターバル時間と翌日の始業時刻が重複する部分を働いたも のとみなすという方法と、翌日の始業時刻を繰 り下げる方法の2つが考えられます。また、後者の取扱いについて、「翌日の終業時刻も繰り下げる」「翌日の終業時刻は変更しない」 、 等の方法が考えられ、導入をする際には取扱いを定めておく必要があります(下図参照)

福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)では、就業規則の制定及び変更、制度設計、労務相談、各種助成金に関するご相談、申請代行等も承っております。
小さなご相談もぜひ一度お問い合わせください。(お問い合わせはこちらから)

5月16日 年次有給休暇の取得義務にまつわるよくある質問

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

2019年4月より、年10日以上の年次有給休暇(以下、「年休」という)が付与される従業員について、付与された年休の日数のうち5日は会社が時季を指定するなどして取得させることが義務となりました。そのため、付与日から四半期や半期を経過したタイミング等で、取得状況の確認をしている企業も多いのではないでしょうか。今回はこの年休の取得義務に関連し、よくある質問をとり上げます。

[1]私傷病により休職している従業員の対応
 年休は労働日に取得ができ、また取得させるものですが、休職は、本来の労働日について労働義務が免除される取り扱いです。付与日以前から休職をしていて、付与日から1年間のすべてが休職となっていた(1年間の途中一度も復帰しなかった)場合は、そもそも労働日がなく、会社にとって年休を取得させることが不可能であるため、5日の取得ができないとしても法違反に問われるものではありません。

[2]育児休業中の従業員の対応
 育児休業も、休職と同様に休業を申し出た期間について労働義務が免除されるため、付与日から1年間のすべてについて、育児休業を取得しているようなときは、[1]と同様の考え方になります。
 ただし、付与日から1年経過する途中に育児休業から復帰した従業員は年休の取得義務の対象になります。その際、復帰した日から付与日から1年経過する日までにある労働日が、取得義務となっている年休の日数より少なく、年5日の年休を取得させることができないときは、取得できなくてもやむを得ないこととなります。
 実務の場面では例えば、付与日から1年経過する日が3月31日であり、3月16日に復帰する従業員がいるときには、3月16日から3月31日までの期間に合計して年5日の年休を取得させなければならないようなケースが発生します。このように年休の付与日から1年経過する日と復帰日が隣接しているような場合であっても、年5日取得できる労働日があるのであれば、取得させる義務があります。復帰にあたっては年休の取得日も併せて確認しておくべきでしょう。

[3]パートタイマーから正社員に転換した従業員の対応
 年10日以上の年休が付与されているパートタイマーについても、付与日から1年以内に5日の年休を取得させる義務があります。このパートタイマーが正社員に転換した場合は、年休の残日数を引継ぎ、取得義務も継続します。
 正社員に転換する際に、例えば、パートタイマーのときには10月1日であった付与日を、正社員については統一付与日である4月1日に前倒しして変更することがあります。このような場合、年5日の取得義務について、パートタイマーの期間と正社員の期間について、重複が生じることになりますが、パートタイマーおよび正社員の期間それぞれで取得させることが原則になります。なお、重複が生じるそれぞれの期間を通じた期間の長さに応じた日数(比例按分した日数)をその期間に取得させることも認められています。
 上記事例の他、管理監督者も年休の付与義務の対象となっています。日常的に多忙で年休を取得する余裕がないという管理監督者の声を耳にすることがありますが、取得義務の期限が迫って、業務に支障を来すことがないように、計画的に取得できるようにしましょう。

■参考リンク

厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」
https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf


福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)では、就業規則の制定及び変更、制度設計、労務相談、各種助成金に関するご相談、申請代行等も承っております。
小さなご相談もぜひ一度お問い合わせください。(お問い合わせはこちらから)

5月9日 2024年4月施行が検討される主な法令等の改正

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

人事労務関連の法令等の改正は年度に合わせて施行されることが多くなっています。その関係もあり、2024年4月施行の法令等の改正が検討されています。以下では、多くの企業で対応が必要となることが予想されるトピックスを紹介しましょう。

【1】有期労働契約期間・上限に関する変更
期間を定めて従業員を雇用すること(有期労働契約)がありますが、この場合には「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」 に従った対応が求められます。今回、この基準の改正により、有期労働契約の変更または更新の際、通算契約期間や有期労働契約の更新回数について、上限を定めたり、引き下げようとしたりするときは、あらかじめ、その理由を従業員に説明しなければならないことになる予定です。例えば、従来は通算契約期間を定めていなかったものを5 年までと定める場合や、更新回数を4回までとしていたものを2 回までにする場合が該当します。

【2】無期転換申込権発生時の対応  
有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、従業員の申し込みにより、無期労働契約に転換できるルールがあります。
この無期転換の申込ができるようになる(無期転換申込権が発生する)契約更新時の労働条件の明示事項に、無期転換申込機会と無期転換後の労働条件が追加される予定です。現在は、無期転換申込権の発生について、会社が従業員に周知する義務まではありませんが、この改正により、労働条件通知書等により周知する必要が出てきます。また、無期転換後は、有期労働契約のときとは異なる労働条件を設定することもあります が、その内容についても、無期転換申込権が発生する契約更新の際に明示が必要になる予定です。

【3】労働条件の明示事項の追加  
労働契約を締結するときには、法令により定められた労働条件を明示する必要があります。この労働条件の明示事項に、就業場所・業務の変更の範囲が追加される予定です。  

また、有期労働契約の場合には、これらに加え、通算契約期間または有期労働契約の更新回数の上限も追加される予定です。  
現在の明示事項である、「就業場所」と「従事すべき業務の内容」の欄は、雇入れ直後のものを記載することで足りるとされていますが、改正されることにより、将来の見込みも踏まえて明示が必要になります。

2024年10月には 51人以上の従業員規模に対して社会保険の適用拡大が行われ、2025年4月には高年齢雇用継続給付の給付率の上限が15%から10%に縮小されます。従業員の働き方に大きく影響するものもあるため、施行される影響の範囲を考えながら人事施策を検討していきましょう

■参考リンク
厚生労働省
「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」
230330労働条件明示改正リーフレット (mhlw.go.jp)
「モデル労働条件通知書」
モデル労働条件通知書 (mhlw.go.jp)


福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)では、就業規則の制定及び変更、制度設計、労務相談、各種助成金に関するご相談、申請代行等も承っております。
小さなご相談もぜひ一度お問い合わせください。(お問い合わせはこちらから)

5月2日 採用と年齢制限

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

企業がどのような人材を採用するかは、原則として会社が任意に決めることができます。ただし、 従業員の募集や採用に当たって、年齢制限を設けることはできません。厚生労働省は、企業に年齢にとらわれない人物本位、能力本位の募集・採用を求めていることから、募集・採用時におけ る年齢制限について確認します。

[1]年齢制限を設けた募集・採用
日本では、一定の年齢に達したことにより、雇用を終了させるという定年の仕組みがあります(定年が満65歳未満の場合、65 歳までの継続雇用義務あり)。このような年齢による雇用の区別を認めているものの、雇用対策法の規定により従業員の募集・採用においては、例外 事由に該当しない限り、年齢を不問としなければならないことになっています。これはハローワークで求人をするときはもち ろんのこと、民間の職業紹介事業者、求人広告などを通じて募集・採用する場合や、企業が自 社のホームページなどで直接募集・採用する場合も含まれます。さらには、形式的に求人票を「年齢不問」と すれば良いわけではなく、年齢を理由に応募を断ったり、書類選考や面接で年齢を理由に採否を決定したりすることも禁止されています。また、応募者の年齢を理由に雇用形態や職種などの求人条件を変えることもできません。

[2]年齢制限の例外事由
例外的に年齢制限を行うことができる事由 としては以下の6つが定められています。年齢制限を設けた募集・採用を考える際には該当する事由がないかを確認しましょう。

  1. 定年年齢を上限として、その上限年齢未満 の労働者を無期契約の対象として募集・採用する場合
  2. 労働基準法その他の法令の規定により年齢制限が設けられている場合
  3. 長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を無期契約の対象として募集・ 採用する場合
  4. 技能・ノウハウの継承の観点から、特定の 職種において労働者数が相当程度少ない 特定の年齢層に限定し、かつ、無期契約の対象として募集・採用する場合
  5. 芸術・芸能の分野における表現の真実性などの要請がある場合
  6. 60 歳以上の高年齢者、就職氷河期世代(昭和43年4月2日から昭和63年4月1日ま でに生まれた人)または特定の年齢層の雇 用を促進する施策(国の施策を活用しよう とする場合に限る)の対象となる者に限定して募集・採用する場合

実務上、年齢制限を行うケースとしては、例外事由の 3 を用いることがあるかと思いますが、この例外事由では、「対象者の職業経験について不問とすること」および「新卒者以外の者について、新卒者と同等の処遇にすること」の二つが必要です。人材不足により、採用活動が厳しくなる中で、年齢を含め、どのような人材を採用していくのか、人材採用戦略の明確化が求められます。

■参考リンク
厚生労働省「その募集・採用 年齢にこだわっていませんか?」

000708105.pdf (mhlw.go.jp)

厚生労働省「労働者の募集及び採用における年齢制限禁止の義務化に係るQ&A」
000708081.pdf (mhlw.go.jp)

福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)では、就業規則の制定及び変更、制度設計、労務相談、各種助成金に関するご相談、申請代行等も承っております。
小さなご相談もぜひ一度お問い合わせください。(お問い合わせはこちらから)

4月25日 2024年4月から適用となるトラック運転者の時間外労働の上限と改善基準告示

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

いよいよ2024年4月1日より、自動車運転業務、建設事業、医師について、時間外労働の上限規制が適用となります。これに併せて自動者運転業務に従事するトラック運転者、バス運転者、タクシー・ハイヤー運転者の改善基準告示が2022年12月23日に改正されました。以下では、2024年4月1日より施行されるトラック運転者に関する改正内容について解説します。

【1】時間外労働の上限
トラック運転者について、特別条項付き36協定を締結する場合、年間の時間外労働の上限が年960時間となります。なお、この960時間には法定休日労働の時間数は含みません。ただし、一般企業等ですでに適用されている以下の2つについては適用されません。

  1. 時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2〜6ヶ月平均80時間以内
  2. 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月まで

そのため、1ヶ月の上限については規定がありませんが、例えばある月の時間外労働が100時間となった場合、他の月の時間外労働を削減すること等により、年960時間を超えないようにする必要があります。

【2】改善基準告示
トラック運転者の改善基準告示が改正され、以下のようになります。

  • 1年の拘束時間

3,516時間 ⇒ 原則:3,300時間(最大:3,400時間)

  • 1ヶ月の拘束時間

原則:293時間(最大:320時間)⇒ 原則:284時間(最大:310時間)

  • 1日の休息期間

継続8時間 ⇒ 継続11時間を基本とし、継続9時間を下回らない

この他、改正はありませんが、1日の拘束時間や運転時間など様々な基準が設けられています。

【3】労働局に編成された「荷主対策チーム」
厚生労働省では、上記の改善基準告示を広く周知するために、「荷主特別対策チーム」が編成されています。この「荷主特別対策チーム」の活動として、トラック運転者の長時間労働の是正のため、発着荷主等に対して、長時間の荷待ちを発生させないことなどについての要請と、その改善に向けた働きかけが行われることになっています。
そのため、長時間の荷待ちに関する情報収集として、厚生労働省ホームページに、以下のような「長時間の荷待ちに関する情報メール窓口」が新設されており、発着荷主等が長時間の荷待ちを発生させていると疑われる事案などの情報を収集し、その情報を基に、労働基準監督署が要請等を行うとしています。

[長時間の荷待ちに関する情報メール窓口]
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/nimachi.html

2024年4月1日の施行まで1年足らずです。自動車運転者を雇用するトラック運送業等は、時間外労働時間の削減に向けた取組を行うとともに、荷主の企業もトラック運送業に対する対応が適切なものになっているか考える必要があります。

■参考リンク
厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/roudoujouken05/index.html
厚生労働省「改善基準告示の改正に伴い「荷主特別対策チーム」を編成しました」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29877.html

福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)では、就業規則の制定及び変更、制度設計、労務相談、各種助成金に関するご相談、申請代行等も承っております。
小さなご相談もぜひ一度お問い合わせください。(お問い合わせはこちらから)