6月3日 腰痛の労災認定の考え方

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

 

従業員が腰痛になり、労働災害(業務上災害)として認定してもらえるのか、相談を受けることがありますが、もともと持病として腰痛があるようなケースもあり、判断が難しいこともあります。これに関して、2025年3月に厚生労働省よりリーフレット「腰痛の労災認定」が公開されましたので、以下ではこのリーフレットの内容をもとに、腰痛の労災認定の考え方を解説します。

 

[1]腰痛の認定基準
 腰痛の認定基準では、腰痛を「災害性の原因による腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」に分けて認定要件を定めており、それぞれに定められた認定要件を満たす場合に労働災害の対象となります。

[災害性の原因による腰痛]
負傷などによる腰痛で、次の要件をどちらも満たすもの

  • 腰の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
  • 腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること

[災害性の原因によらない腰痛]
突発的な出来事が原因ではなく、重量物を取り扱う仕事など腰に過度の負担のかかる仕事に従事する従業員に発症した腰痛で、作業の状態や作業期間などからみて、仕事が原因で発症したと認められるもの

 

[2]ぎっくり腰の考え方
 仕事中に、従業員がいわゆるぎっくり腰(病名は「急性腰痛症」など)になるケースがありますが、これは日常的な動作の中で生じるため、仕事中に発症したとしても、通常、労働災害の対象とはならないとされています。ただし、発症時の動作や姿勢の異常性などから、腰への強い力の作用があった場合には労働災害の対象として認められることがあります。

[3]仕事により症状が再発・重症化した場合の考え方
 椎間板ヘルニアなどの既往症または基礎疾患のある従業員が、仕事を行うことで、その疾病が再発したり重症化したりするケースがあります。このような場合には、その前の状態に回復させるための治療に限り労働災害の対象となるとされています。

 腰痛にならないための対策に取り組む中小企業を支援するために、エイジフレンドリー補助金が設けられています。これは、従業員の身体機能低下による転倒や腰痛を防止するため、専門家等による身体機能のチェックおよび運動指導にかかる経費を補助するものです。今後出てくる詳細情報を確認しましょう。

■参考リンク
厚生労働省「腰痛の労災認定について

 

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5月27日 不妊治療と仕事との両立の職場づくりマニュアルと助成金

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少子高齢化による労働力人口の減少が進む中で、従業員の多様な働き方への支援は、企業の持続的な成長に不可欠です。両立支援のテーマとしては、育児や介護、病気治療など様々なものがありますが、近年、企業で対応が進められているのが、不妊治療と仕事の両立です。厚生労働省では、不妊治療と仕事の両立支援に関する企業向けマニュアルの策定や助成金制度の創設などの取組みをしています。以下では、これらの内容についてとり上げます。

 

[1]不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル
 厚生労働省では、企業向けに「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」を策定し、不妊治療と仕事との両立支援を導入する際のステップ(以下、「両立支援導入ステップ」という)や企業の事例などをとり上げています。ここで示されている両立支援導入ステップは、以下のとおりです。

 Step1 取組方針の明確化、取組体制の整備
 Step2 社員の不妊治療と仕事との両立に関する実態把握
 Step3 制度設計・取組の決定
 Step4 運用
 Step5 取組実績の確認、見直し
 このうち、Step2の実態把握は、従業員の不妊治療と仕事との両立支援の取組を進める上での出発点となります。その方法としては、社内の現状をチェックリストで把握したり、従業員の状況を把握するためにアンケートを実施したりすること等が挙げられますが、このマニュアルでは、この実態把握のために活用できるチェックリストやアンケート例が掲載されています。
 Step4の運用では、制度の周知やプライバシーの保護、社内の相談対応などがあります。社内の相談対応については、相談を受けた場合に、相談内容を誰にどの範囲まで共有してよいか、本人に確認しておくことが重要であり、電話で相談を受ける場合には相談を受ける担当者の性別が分かるようにしておくことの配慮が求められます。

[2]両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)
 両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)は、不妊治療と仕事との両立に資する職場環境の整備に取り組み、不妊治療のために利用可能な両立支援制度などを労働者に利用させた中小企業を支援するもので、2025年度に新設されました。女性の健康課題に対応するために利用可能な両立支援制度を設けたときにも対象になります。
 主な支給要件としては以下の4つが挙げられます。

  1. 両立支援制度として以下の6つの中から制度を導入し、制度利用の手続きや賃金の取扱い等を就業規則等に規定していること。休暇制度/所定外労働制限制度/時差出勤制度/短時間勤務制度/フレックスタイム制度/在宅勤務等
  2. 従業員からの相談に対応する両立支援担当者を選任していること。
  3. 対象従業員が導入した制度を合計5日(回)利用していること。
  4. 対象従業員について、制度利用開始日から申請日において、雇用保険被保険者として雇用していること。

 支給額は30万円で、1事業主あたり1回限りとなっています。

 また、不妊治療と仕事との両立がしやすい環境整備に取り組む企業を認定する「くるみんプラス」、「プラチナくるみんプラス」および「トライくるみんプラス」の制度も設けられています。厚生労働省では企業を支援する取組みを行っていますので、参考リンクを確認し取組み可能なところから進めるとよいでしょう。

■参考リンク
厚生労働省「不妊治療と仕事との両立のために
厚生労働省「両立支援等助成金のご案内

 

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5月20日 厚生労働省による業種別カスタマーハラスメント対策の取組支援

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カスタマーハラスメントについては4月に東京都の防止条例が施行され、また国会でも対策措置の義務化を定める法案の議論が行われています。カスタマーハラスメントの問題が大きくなる中、厚生労働省では企業の取組を支援するために企業マニュアルや研修動画等をホームページに公開しました。以下ではその内容をとり上げます。

 

[1]あかるい職場応援団
 厚生労働省では、人事労務に関して様々なテーマの総合情報サイトを公開していますが、ハラスメントに関しては、総合情報サイト「あかるい職場応援団」があり、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントのほかに、カスタマーハラスメント、就活ハラスメントの情報も発信されています。

[2]カスタマーハラスメント対策の各種ツール
 この「あかるい職場応援団」の情報サイトでは、カスタマーハラスメント対策に関して、以下の情報が掲載されています。

  • 業種別カスタマーハラスメント対策の取組支援(企業マニュアル・ポスター・研修動画、マニュアル策定手順例)
  • カスタマーハラスメント対策企業事例
  • カスタマーハラスメント対策企業マニュアル・リーフレット・ポスター

 このうち、業種別カスタマーハラスメント対策の取組支援では、スーパーマーケット業編が公開されています。これは、カスタマーハラスメント対策に関心を持つ業界団体等が業界内のカスタマーハラスメントの実態を踏まえ、業界共通の対応方針等を策定・発信するまでの支援をモデル事業として実施したもので、2024年度はスーパーマーケット業界で実施されました。そして今年3月に、業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(スーパーマーケット業編)、周知啓発ポスター、研修動画が公開されています。

 このほか、他の業界が同様に業種別の対策マニュアルを策定する際の参考となるように、業種別カスタマーハラスメント対策マニュアルの策定手順例が公開されています。

 すでにカスタマーハラスメント対策の取組を進め、消費者の目に入る場所にポスターを掲示しているような企業も見受けられます。今後、カスタマーハラスメント対策の取組を検討する際には、今回取り上げた情報なども活用されることをお勧めします。

 

■参考リンク
あかるい職場応援団「カスタマーハラスメントを知っていますか?
厚生労働省「業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル (スーパーマーケット業編)等を作成しました。

 

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5月13日 6月より義務化される新たな熱中症対策

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熱中症による死傷者が増加する中、労働安全衛生規則が改正され、2025年6月より新たな熱中症対策が企業に義務化されます。以下では、熱中症による死傷災害の状況と今回義務化される事項をとり上げます。

[1]熱中症による死傷災害の状況
 厚生労働省から2023年の「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」が公表されています。これによると、2023年の職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は、1,106人と前年比で279人増えています。過去10年間の推移は下表のようになります。業種別では、全体の約4割が建設業と製造業で発生しています。※図はクリックで拡大されます。

 死傷者(死亡・休業4日以上)1,106人のうち、熱中症による死亡者数は31人で、建設業(12人)や警備業(6人)で多く発生しています。死亡災害の状況を分析すると、多くの事例で暑さ指数(WBGT)を把握せず、熱中症予防のための労働衛生教育を行っていませんでした。また、糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病を有している事例も見られました。

 

[2]6月から義務付けとなる事項
 このような状況をうけ、熱中症対策として、2025年6月より以下の2つの事項が義務付けられます。

  1. 報告体制の整備 熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、「熱中症の自覚症状がある作業者」および「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知することが必要になります。
     この熱中症を生ずるおそれのある作業とは、WBGT28度または気温31度以上の作業場において行われる作業で、継続して1時間以上または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるものとされています。
  2. 措置内容・実施手順周知 熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、(1)作業からの離脱、(2)身体の冷却、(3)必要に応じて医師の診察または処置を受けさせること、(4)事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等など、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知が必要になります。

 厚生労働省では、職場における熱中症予防対策を徹底するため、労働災害防止団体などと連携し、5月から9月まで、「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施しています。厚生労働省のポータルサイト「職場における熱中症予防情報」では、動画コンテンツや事業主、安全・衛生管理担当者、現場作業者向けの資料などが公開されていますので、対策を行う際にぜひご活用ください。

 

■参考リンク
厚生労働省「職場における熱中症予防情報
厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン(職場における熱中症予防対策)

 

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5月7日 給与が「〇〇pay」等のデジタルで受け取れるようになる賃金のデジタル払い

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2025年4月4日に、〇〇payといったデジタル払いで受け取れる「賃金のデジタル払い(給与のデジタル払い)」が認められる資金移動業者として、4つ目の業者が厚生労働省の指定を受けました。これで、以前から厚生労働省に対し申請を行っていたすべての業者が指定を受けたことになります。これにより今後、賃金のデジタル払いの普及が予想されますので、その概要についてとり上げます。

 

[1]賃金のデジタル払いとは
 会社が従業員に支払う給与は「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と労働基準法で規定されています。その例外として、従業員から個別に同意を得て、従業員が指定する本人名義の預貯金口座や証券総合口座に振り込むことが認められています。
 2023年4月よりこれに加えて、会社が従業員の同意を得た場合に、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金の支払い(賃金のデジタル払い)が可能となりました。2025年4月4日時点で、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者は、PayPay株式会社(PayPay給与受取)、株式会社リクルートMUFGビジネス(COIN+(スタンダード))、楽天Edy株式会社(楽天ペイ給与受取)、auペイメント株式会社(au PAY 給与受取)の4社です。

[2]必要な手続き
 賃金のデジタル払いを行うためには、以下の6つの手続きがあります。

  1. 指定資金移動業者の確認
  2. 導入する指定資金移動業者のサービスの検討
  3. 労使協定の締結等
  4. 従業員への説明
  5. 従業員の個別の同意取得
  6. 賃金支払いの事務処理の確認・実施

 4.と5.については、賃金のデジタル払いを希望する従業員に対して、賃金のデジタル払いに関する必要事項を説明した上で、個別に同意を取ります。説明の際には、賃金の支払い方法に関する他の選択肢(現金、預貯金口座への振り込みまたは証券総合口座への払い込み)もあわせて提示することになっています。従業員の同意取得については、同意を得る際に、賃金のデジタル払いを行う口座に賃金を振り込むために必要な情報、受け取り希望額、指定代替口座等の情報も取得することになっています。

 厚生労働省はホームページ上の専用ページ「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」をリニューアルし、使用者、労働者、資金移動業者の3つに分けて、それぞれに向けた情報を発信しています。今後、賃金のデジタル払いを検討される際は、まずはこの専用ページを見てみるとよいでしょう。

■参考リンク
厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について
厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)における資金移動業者の指定

 

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4月28日 割増賃金の基礎となる賃金と最低賃金の対象となる賃金の違い

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賃金の支払いにあたっては、法令により様々なルールが定められており、それに沿った支払いが求められます。そこで今回は、割増賃金を計算するときに基礎となる賃金と、最低賃金の対象となる賃金の範囲について確認していきましょう。

 

[1]割増賃金
 割増賃金の基礎となる賃金から除外できるものとして、以下の7つが定められています。割増賃金を計算するにあたっては、この除外賃金以外の賃金を基礎となる賃金として含める必要があります。

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

 また、1~5については、手当の名称ではなく、その内容によって割増賃金の基礎となる賃金から除外できるかを判断します。判断にあたっては厚生労働省が示している具体的な範囲を参考にするとよいでしょう。例えば住宅手当の場合、「住宅に要する費用に応じて算定される手当」は除外できるとし、除外できない例も含め、以下の具体例が示されています。

【除外できる例
 住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給するもので、例えば、賃貸住宅居住者には家賃の一定割合、持家居住者にはローン月額の一定割合を支給する場合。
【除外できない例】
 住宅の形態ごとに一律で支給するもので、例えば賃貸住宅居住者には2万円、持家居住者には1万円を支給する場合。

 

[2]最低賃金
 最低賃金の対象となる賃金については、毎月支払われる基本的な賃金とされており、具体的には実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。

  1. 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
  2. 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  3. 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(所定外割増賃金など)
  4. 所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
  5. 午後10時から午前5時までの労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
  6. 精勤手当、通勤手当および家族手当

[3]間違えやすい手当
 間違えやすい手当の一つとして、精皆勤手当があります。精皆勤手当は、割増賃金計算においては対象となりますが、最低賃金のチェックにおいては除外することになります。

 割増賃金の計算方法を誤っていた、最低賃金を下回っていたということがないように、改めて各手当の取り扱いを確認し、問題があれば早急に是正しましょう。

■参考リンク
厚生労働省「割増賃金を計算する際の基礎とは?
厚生労働省「対象となる賃金は?

 

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4月22日 2025年4月より短縮された雇用保険の基本手当を受給できるまでの給付制限期間

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従業員が会社を退職し、収入が得られなくなったときに頼りにするものの一つが、雇用保険の基本手当です。基本手当は、退職理由や退職時の年齢、被保険者であった期間等により、受給できるまでの期間や受給できる額(所定給付日数)に違いが出てきます。以下では、受給できるまでの期間である給付制限期間について確認します。

 

[1]給付制限期間
 雇用保険の基本手当を受給にあたっては、退職理由に関わらず、受給資格が決定した日から7日間の「待期期間」が設けられています。その後、正当な理由がなく自己の都合により退職した人には、給付制限期間として、1~3ヶ月間の基本手当が支給されない期間が設定されます。
 この給付制限は、離職日が2020年10月1日以降の人について3ヶ月から2ヶ月に短縮されており、さらに、退職日が2025年4月1日以降の人については1ヶ月に短縮されました。ただし、退職日から遡って5年間のうちに2回以上、正当な理由なく自己の都合により都合退職し受給資格決定を受けた場合には、給付制限は3ヶ月となります。また、自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇(重責解雇)された場合にも、給付制限は3ヶ月間となります。

[2]教育訓練受講による解除
 2025年4月以降は、リ・スキリングのために教育訓練等を受けている場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できるようになりました。
 対象となる教育訓練等とは、2025年4月1日以降に受講を開始したものであり、教育訓練給付金の対象となる教育訓練や、公共職業訓練等の一定範囲内のものに限ります。退職日以後に教育訓練等を受ける場合には、受講開始日以降給付制限を受けないほか、退職前1年以内に教育訓練等を受けたことがある場合には、給付制限が解除され、待期期間満了後からすぐに基本手当の支給対象となります。なお、退職理由が重責解雇の場合は、この給付制限の解除の対象外となります。

[3]解除の手続き
 給付制限の解除のためには、受講開始以降、受給資格決定日や受給資格決定後の初回認定日(初回認定日以降に受講を開始した場合は、その受講開始日の直後の認定日)までに、ハローワークの窓口で申し出る必要があります。
 給付制限期間が2ヵ月以上で、初回認定日以降かつ給付制限期間中に教育訓練等の受講を開始する場合には、申し出の期限に注意が必要で、次のようになります。

  1. 受講開始日が「初回認定日」以降かつ「認定日の相当日」前の場合、受講開始日直後の「失業認定日に相当する日」までに申し出。
  2. 受講開始日が「認定日の相当日」以降かつ「給付制限期間満了後の失業認定日」前の場合、「給付制限期間満了後の失業認定日」までに申し出。

 申し出の際、訓練開始日が記載された領収書または訓練実施施設による訓練開始日の証明書といった添付書類の用意が必要になります。

 基本手当の受給については、従業員の退職後の対応になるため、本来であれば従業員自身で確認し、対応が必要なことにはなりますが、退職予定者からの質問も多い内容ですので、制度の概要は押さえておきたいものです。

 

■参考リンク
厚生労働省「令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます

 

 

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4月15日 支給対象者の範囲や助成額が大幅変更となるキャリアップ助成金

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非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、キャリアップ助成金が用意されています。この助成金は、正社員転換、処遇改善の取り組みを実施した事業主に対し、助成金が支給される制度です。2025年4月より支給対象者や助成額が大きく変化することから、この内容をとり上げます。

[1]正社員化コース

 キャリアアップ助成金の正社員コースとは、有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換等した場合に助成金が支給されるものです。一律の額となっていた労働者について、2025年4月1日以降は、以下のように重点支援対象者とそれ以外に分けて助成されます。

【重点支援対象者】1人当たり
 有期→正規 80万円(60万円)
 無期→正規 40万円(30万円)
【重点支援対象者以外】1人当たり
 有期→正規 40万円(30万円)
 無期→正規 20万円(15万円)
 ※()内はいずれも大企業の助成額

 重点支援対象者とは、以下のa~cのいずれかに該当する労働者を指します。

  1. 雇入れから3年以上の有期雇用労働者
  2. 雇入れから3年未満で、次の(1)(2)いずれにも該当する有期雇用労働者
    (1)過去5年間に正規雇用労働者であった期間が合計1年以下
    (2)過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない
  3. 派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者

 なお、雇用された期間が通算5年を超える有期雇用労働者については無期雇用労働者とみなされます。

 

[2]賃金規定等改定コース
 賃金規定等改定コースでは、有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を増額改定し、適用させた場合に助成金が支給されるものです。増額幅が3%以上5%未満と、5%以上の2つに区分されていたものについて、下表のように変更が行われています。4%未満の改定については助成額が縮小した一方で、6%以上の改定について助成額が拡大しています。

賃金引き上げ率 助成額(1人当たり)
3%以上4%未満 4万円(2.6万円)
4%以上5%未満 5万円(3.3万円)
5%以上6%未満 6.5万円(4.3万円)
6%以上 7万円(4.6万円)

※()内はいずれも大企業の助成額 また、有期雇用労働者等の昇給制度を新たに設けた場合、1事業所当たり1回のみ20万円(大企業は15万円)を加算する措置が新設されます。

 キャリアップ助成金を利用する場合、各コースの取り組み実施日の前日までに管轄の労働局長にキャリアアップ計画書を提出し、認定を受ける必要がありましたが、2025年4月1日以降は、届け出のみになりました。活用を検討される場合は、最新情報を確認の上、キャリアアップ計画書の作成から進めましょう。

■参考リンク
厚生労働省「キャリアアップ助成金

 

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4月8日 2025年度の雇用保険料率と賃金の考え方

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雇用保険料率は財政状況に応じて毎年度、見直しが行われています。以下では、決定した2025年度の雇用保険料率と、雇用保険料の対象となる賃金等について確認します。

 

[1]2025年度の雇用保険料率
 雇用保険財政は、新型コロナウィルス感染拡大の影響で一時的な悪化が見られたものの、財政状況の回復も見られることから、2025年度は下表のとおり、前年度から引下げとなります。

2025年度の雇用保険料率

 

従業員負担 会社負担 合計
一般の事業 5.5/1,000 9/1,000 14.5/1,000
農林水産・清酒製造の事業 6.5/1,000 10/1,000 16.5/1,000
建設の事業 6.5/1,000 11/1,000 17.5/1,000

 

[2]雇用保険料の対象となる賃金
 雇用保険料の対象となる賃金とは、賃金、手当、賞与、その他名称を問わず労働の対償として会社が従業員に対し支払うすべてのものを指します。基本給や各種手当はもちろんのこと、非課税である通勤手当も対象となります。また、割増賃金の算定基礎には含まれない住宅手当や家族手当も対象となります。
 給与を通貨ではなく、現物給与として支給するときには、代金を徴収するものは、原則として賃金に該当しません。ただし、徴収する金額が実際の費用の3分の1を下回っている場合は、実際費用の3 分の1に相当する額と徴収する金額との差額部分が、賃金として取扱われます。実際の費用の3分の1を上回る代金を徴収しているものは現物給与として扱われません 。

※図はクリックで拡大されます。

 

[3]離職票等に記載する賃金
 雇用保険料の対象となる賃金のうち、「臨時に支払われる賃金」と「3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」を除いたものが離職証明書(いわゆる「離職票」)等に記載する賃金です。
 「臨時に支払われる賃金」とは、支給されることがまれであるか、不確実であるものをいいます。また、「3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」とは、毎月の定期給与以外の賃金のうち、年間を通じての支給回数が3 回以下のもので、いわゆる「賞与」を指します。
 そのため、就業規則等により年間を通じて4 回以上支給される場合は、3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金に該当しないこととなり、離職票等においては「賃金に関する特記事項 」として記載が必要です。

 雇用保険料の対象となる賃金や、離職票等に記載する賃金については、普段見返す機会があまりないかと思います。この機会に適正な処理をしているかを確認してみるとよいでしょう。

 

■参考リンク
厚生労働省「令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内
厚生労働省「雇用保険事務手続きの手引き

 

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4月1日 4月に創設される育児時短就業給付金

こんにちは、福岡支援助成金センター(社会保険労務士法人サムライズ)です。

いよいよ2025年4月1日より新たな雇用保険の給付金である「育児時短就業給付金」が創設されます。この給付金は、2歳未満の子どもを養育するために所定労働時間を短縮して就業し、賃金が低下したときなどに支給されるものです。以下では、この内容を解説します。

 

[1]支給要件
 育児時短就業給付金は以下の2つの要件を満たす雇用保険の被保険者に支給されるものです。

  1. 2歳未満の子どもを養育するために、育児時短就業すること
  2. 育児休業給付の対象となる育児休業から引き続いて、育児時短就業を開始した、または、育児時短就業開始日前2年間に被保険者期間が12ヶ月あること

 なお、育児時短就業とは、1週間当たりの所定労働時間を短縮して就業することを指します。そのため、1日の所定労働時間は短縮していないものの、1週間の所定労働日数を減らすような場合も、上記1の要件を満たすことになります。
 また、正社員として育児時短就業をする場合のみでなく、例えばパートタイマーに雇用区分を変えることで1 週間当たりの所定労働時間が短縮される場合も含まれます。

 

[2]支給額
 育児時短就業給付金の支給額は、原則として育児時短就業中に支払われた賃金額の10%相当額となっています(支給限度額あり)。ただし、育児時短就業開始時の賃金水準を超えないように調整されるため、育児時短就業時の賃金額が、育児時短就業開始時の賃金月額の90%を超える場合には、下表のように支給率が逓減します。

育児時短就業給付金の支給率早見表

賃金率 支給率 賃金率 支給率
100.00% 0.00% 95.00% 4.74%
99.50% 0.45% 94.50% 5.24%
99.00% 0.91% 94.00% 5.74%
98.50% 1.37% 93.50% 6.26%
98.00% 1.84% 93.00% 6.77%
97.50% 2.31% 92.50% 7.30%
97.00% 2.78% 92.00% 7.83%
96.50% 3.26% 91.50% 8.36%
96.00% 3.75% 91.00% 8.90%
95.50% 4.24% 90.50% 9.45%
90.00% 10.00%

 

[3]経過措置
 2025年4月1日より前から、2歳未満の子どもを養育するために育児時短就業に相当する短時間勤務をしている場合は、2025年4月1日から育児時短就業を開始したものとみなして、支給要件や育児時短就業前の賃金水準を確認することになっています。実際に、短時間勤務を開始したときにさかのぼるわけではない点に注意が必要です。

 支給申請は、原則として2ヶ月に1回、会社を通じて行うこととされていますが、従業員が希望する場合には、従業員自ら支給申請を行うことや、1ヶ月ごとに支給申請を行うこともできます。給付金の対象となる従業員をどのように把握して円滑な手続きを行うか、事前にその流れを検討しておきましょう。

 

■参考リンク
厚生労働省「育児休業等給付について

 

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